2021年11月23日
先週の日記にも書いたように、今スニーカー大賞では下剋上システムっていう企画が開催されている。二次選考で惜しくも敗れた作品の中から一作を拾い上げる読者投票。フォロワーの作品もそこにあるからって理由で何作か読んだんだけど、『宇宙の楽譜はすべて星』が自分の心の突っかかりに引っかかる形をしていたから、それについて少し書こうと思う。
・ヒロインの設定がかなり好き。日常の中にああいう異物感のある人物がいて宇宙人と名乗ってるっていうのがいい。この宇宙のどこかに世界を救う方法がギュっと詰め込まれた星があるっていうの好き
・「ピアノ――続けるべきだったと思う」のところめちゃくちゃよかった
・主人公、楽器女に本当のことを教えるのはかわいそうって言ってるけどそれこそ残酷なことなんですよね。気付くのが遅れれば遅れるほど帰還が遠のくので。それを分かってるのに地球社会でのマナーも賽銭のことも何も教えないの意地悪では。本筋から逸れるし別にそれはそれでいいんだけど教えなさすぎな気がした。ラストをああしたかったから敢えて実のある会話を削ったのかな
・「そういえばお母さんとは仲直りしたの?」「べつに元からケンカなんかしてねぇよ」のやりとり好き
・世界を救うっていうのが戦争を止めるとかじゃなく主人公の心のわだかまりを解くってことだったのが好みだった。世界を旅して見つけた答えはちっぽけで優しいほどいい。
・物語の進み方は丁寧なんだけど、一本道すぎるように感じた。名前や合唱祭の設定をもっと絡めてもよかったと思う。タカや飯田が存在しているだけなのももったいなく感じた
・音楽に執着する町に生きているということをもっと意識して書いてほしかった。主人公の悩みは環境によって作られた部分が大きいから、町の描写や絡みが増えることで主人公の掘り下げにも繋がったと思う
・名前と補助金の関係について書いてあったけど、彼の親もそうだったんだろうか。ケンカを書くならそのあたりについても触れてほしかった
下剋上の楽譜が自分の心の突っかかりに引っかかる形をしてたからブログに書きたくなってる
— 駅近 (@ekitika_mansion) 2021年11月22日
ここからは全然関係ない話です。音楽を反面教師にした話。
私の地元はわりと田舎なんですよ。年々人口は減ってるし、新しいお店は県外からやってきたチェーン店くらいしかないし、そういうところ。観光の目玉となる場所がないではないけど永遠に利益をもたらしてくれるものではないからこの先どうなるんだろうって漠然とした不安を感じたりもする。
昔は駅前にヨーカドーが建ってたけど20年くらい前に潰れて今はパチンコ屋になってる。パチンコ屋、一度建つと潰れないんですよ。もうヨーカドーより長いことあの土地に建ってる。バイパス沿いのスーパーもパチンコ屋になってからずいぶん経つ。
かっぱ寿司に圧されて地元の回転ずし(ネタが大きくて安くて美味しい!)が潰れたのは悲しかった。新幹線で運ばれてくるのがそんなにいいのか? これは全然関係ない話なんだけど、地元は昔陸の孤島って呼ばれるくらい交通の便が悪かったんですよ。だから新幹線が来たときはすごかったらしい。
地元の大学は毎年定員割れだし、そこの学生が地域を盛り上げるために始めたお店は半年で閉店した。テナントだけは押えてたみたいだけど、数年前に通りかかったらテナント募集の紙が貼ってあった。大学と地域の連携を強化するって名目で卒業生を積極的に雇用する取り組みがあったんだけど、今では下火になってる。
そういう場所ではあるけど前はそれなりに盛り上がってたんですよ。町の中心に大きなデパートがあって、そこを中心にしてアーケード街が設計されたりもした。有名なデザイナーだか建築家の人に依頼したって話だったから景気のいい時代もあったんだと思う。
でもそれも昔の話。今ではデパートはガラガラで、賑わってるのは一階のパチンコ屋だけ。アーケードは老朽化で取り壊された。そもそもとして、あそこが人で賑わっているのなんてお祭りの時くらいだったんですよね。アーケード、人通りがあることを前提に設計されたからこそ、現実の閑散さが目立ってしまっていた。
でも、そういうところでも何か始めようとする人っているんですよ。『宇宙の楽譜はすべて星』を読んでそれを思い出した。
私が高校二年生の頃、夏休みに毎日図書館に行っていた時期があったんです。遊ぶ友達がいなかった(し、予定が立っても前日に他の予定が入ったって言われてドタキャンされたりしてた)のと、宿題をサボって家でダラダラしてると何か言われるんじゃないかって冷や冷やして落ち着かなかったっていうのが理由。
図書館にはアーケード(この時はまだ現役だった)を通って行っていたんですが、ある日そこに人がいることに気付いたんです。彼は20代前半くらいで、デパート前のアーケード下でギターの弾き語りをしてた。その時は「弾き語りする人初めて見た! 本当にいるんだ!」くらいにしか思わなかったんだけど、そこを通るたびその人がいるもんだからなんとなく気になってました。いつ見ても観客ゼロなのになんで続けてるんだろうって。
どうしても気になって、次の日演奏を聴きに行ったんです。そしたら彼がMCで「メジャーデビュー目指してます」って言うんですよ。でも日曜日なのに人っ子一人いないようなアーケードで演奏することとメジャーデビューって言葉がどうにも繋がらなくて、曖昧な笑顔しか返せなかったのを今でも覚えてる。
彼が言うには「観客を100人集められるようになったらイベント用のステージを用意してもらえるってデパートと約束してる」らしいんだけど、まず無理だろって地元民である私は思ってた。いや、彼も地元民だろうから気付かないはずはないんだけど……。
本当にメジャーデビューを目指すなら潰れそうなデパートの前じゃなく都会で弾き語りした方がよっぽどいいし、デパートとの約束だって逆に足枷になってそうだなって思った。
そのことがずっと頭に残ってたからか、何かを始めるなら方法をしっかり考えるべき、踏み出すなら場所を選ぶべきって思うようになって上京しようって気持ちが強くなった。この言い方はあまり好きではないけど、地元にいるより上京した方があらゆる可能性が高かったので。
そんな後ろ向きな理由ではあったけど、上京したのは間違いではなかったと思ってる。地元での人間関係を離れたことで変われた部分がたくさんあった。内向的な性格や重いフットワークでもそれなりに活動できる環境に身を置けたのは本当に大きい。自分を変えられたら一番いいのかもしれないけど、場所を変えるだけでどうにかできるならそれでもいいんだと思う。
でも今考えると、あそこで弾き語りしてたのって何かしら思うところがあったからなのかもしれない。地元で、あそこでやる意味ってほぼないようなものだし、毎日やってそれに気付かないっていうのも考えにくい。今も続けてるのかは知らないけどちょっと気になる。どんな考えがあったんだろう。
音楽の話を見たり読んだりするたび、このことについて考えてしまう。
『宇宙の楽譜はすべて星』のあの町でも、彼みたいな人はいるんだろうか。あの町にいる限り上手くいかないだろうけど、それでもあの町でやることに意味を見出してる人。音楽の才能はないと判断されて初めて別のことができるらしいけど、それをして周りはどのくらい乗ってくれるんだろう。
やっぱりあの町のことが気になるし掘り下げてほしい。あの町だから起きる出来事、怒らない出来事がもっと知りたい。
自分語りするぞ!ってブログだからこれでおしまい。
出版社主導で下剋上できるのはここだけ!!!